年収の壁支援強化パッケージが微妙
今年は 3%以上という30 年ぶりの高い水準での賃上げ率となり、また、地域別最低賃金額の全国加重平均は 1004 円となり、賃上げムードが高まっています。
政府はいわゆる「年収の壁」をめぐり、フルタイム労働者だけではなく、短時間労働者にも賃上げの流れを波及させていくためには、本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境が重要であるとして、社会保険料による手取り収入の減少を防ぐための臨時的な措置を9月27日発表しました。この措置の施行は10月からというのですから驚きです。もうすでに10月のシフトなんか決まってますよ、というこのぎりぎりのタイミングで、もうずいぶん前々から問題になっている年収の壁への対応措置を急に決定、発表してきました。唐突すぎます。こっちの理解が追い付かないです。
「年収の壁」は、一定の年収を超えると配偶者の扶養を外れ、社会保険料の負担が生じて手取りが減るもので、パートで働く人の就労時間の抑制を招くことなどから人手不足の要因とも指摘されています。
ちょうど先日の私の動画でも、10月から最低賃金が大幅に上がるため扶養の範囲で収入をセーブしている人の労働時間が減るだろうというお話をしていますので、合わせてごらんください。
ちなみに年収の壁にもいろいろありますが、今回は社会保険の壁である106万円、130万円の壁に関する話です。務めている会社の正社員並みの労働者の人数が101人以上の比較的大きめの会社では、週20時間以上勤務で月収88000円以上ある人は、つまり年収106万円以上ある人は、自ら社会保険の被保険者にならなくてはならないという決まりがあります。つまり配偶者の扶養から抜けて、自分で社会保険料を納める側になるということです。
また、正社員並みの労働者の人数が100人以下の会社では、年収130万円以上ある人は配偶者の社会保険の扶養に入れないというルールが現状あります。
社会保険について、配偶者の扶養に入ると、無料で健康保険と国民年金の権利をゲットできるので、扶養はお得、扶養からはずれると社会保険料を自分も払うことになり損するという話になるわけです。
政府は、人手不足の解消と短時間労働者の労働参加を目指して次のような支援策を急遽スタートさせると発表しました。具体的な内容は次の通りです。
(1)106 万円の壁への対応
(①キャリアアップ助成金のコースの新設、 ②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外)
(2)130 万円の壁への対応(③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)
(3)配偶者手当への対応(④企業の配偶者手当の見直し促進)
政府は「106万円の壁」について、手取りが減らない水準まで賃上げや労働時間の延長を行う企業に対し、従業員1人当たり最大で50万円を助成するということです。
これはつまり、106万円の壁を越えて社会保険に自ら入ることになったとしても従業員の手取りが減らないように、会社がその分を社会保険適用促進手当として特別に支給するとその会社には最大50万円まで支給しますよというはなしです。あくまでも働く人に直接50万円支給するのではなく支援する会社に支払われます。しかも今回分かったのは、賃金の15%以上を追加支給したら、1年目に20万、同じく翌年も15%以上追加支給したら2年目に20万、3年目に賃金の18%以上を増額させていると3年目に10万支給するという、1人50万円といっても大変複雑で年月のかかる支援策です。
労働時間を延長することで給料アップさせても30万円支給するということですが、こちらは6か月後に支給となっています。そして、手当を出すのと労働時間を延長するのと両方を組み合わせて増額するのも可能となっています。
相変わらずわかりにくい制度です。
ちなみに大企業は助成金が4分の3になるとのことです。
また、この社会保険適用手当をもらっても、この手当に対しては社会保険料を課さないということも記載されています。そりゃあそうでないと困りますよね、社会保険料の負担を軽減する措置なのに、その取り組みを実行したらその分社会保険料がまた増えたってことになったらさらに手当てが必要になり、てことで、取り組みがぐるぐる回って終わらないですからね。これは当然そうするべきだと思います。
配偶者の扶養を外れてみずから国民年金や国民健康保険の保険料を支払うようになる「130万円の壁」について、一時的な増収であれば連続して2年までは扶養にとどまれるようにする方向で検討を進めています。現在の運用でも一時的な増収であれば、直ちに扶養から外すことはせずに総合的に判断することになっていますが、「2年まで」と期間を明示することで、扶養にとどまりやすくし、就労時間の抑制を防ぐのがねらいです。
具体的な運用では事業主側が一時的な増収と証明し、健康保険組合などが判断することになります。
政府はさらに企業の配偶者手当も労働時間の調整の要因になっているという見方をしています。具体的な対応としては、企業において、配偶者手当の見直しを数量促すというのです。つまり配偶者手当なんか出すから、配偶者は働かないので、配偶者手当を廃止しなさいということです。単純に手当てを廃止すると、従業員にとっては不利益変更になるので、配偶者手当をなくした分基本給を上げたり、子供手当を増額しなさいという指導をするようです。
これらの支援をすることで、特にこの10月からの最低賃金アップに間に合わせようとしたのでしょうとは思いますが、3,4日前に政府内で決定して唐突に発表されてもみんな着いていけませんよね。対象となる労働者も会社側も私自身も支援策の内容をよく理解できないまま、どの制度を使えばいいのか選ぶ間もなく10月になりそうです。
こんなややこしいことをぎりぎりに言わないでほしいなと、本当に強く思います。
また、会社側の50万円の補助も簡単とはいえそれなりの書類審査はあるわけで、それもまた2,3年かけて後々恩恵を受けるということになりますので、それまでは会社側は、社会保険適用促進手当も出さなきゃいけないし、社会保険料も今までより当然高額負担になるのを負担しないといけないので、ただただ大変ですよね。増えるのは事務負担だけってところでしょうか。
あと、2年後2025年からはもっと社会保険の適用を広げるようなうわさもありますので、このような一時しのぎの国の支援策をどこまで喜んでいいのかわかりません。もっとシンプルな話にしてほしいと思いました。